のこの惨劇が、皮肉な自白なのであろうか。
赤星ジュリアは無事に引きあげたろうか。覆面の名探偵青竜王は雪辱《せつじょく》の決意に燃えて、いかなる活躍を始めようとするのか。
そのうちに、どこからともなく、あの「恐怖の口笛」が響いてくるような気配がする。
吸血鬼の正体は、そも何者ぞ!
怪しい図面《ずめん》
大胆不敵の兇賊《きょうぞく》痣蟹仙斎《あざがにせんさい》が隠れ柱の中に逃げこもうとするのを、素早く覆面探偵青竜王がムズと掴《つかま》えたと思ったが、引張りだしてみると何のこと、痣蟹の左足の長靴と、そして洋服の裂けた一部とだけで痣蟹の身体はそこに見当らなかったではないか。これには痣蟹|就縛《しゅうばく》に大悦《おおよろこ》びだった雁金検事や大江山捜査課長をはじめ検察官一行は、網の中の大魚を逃がしたように落胆した。
しかし痣蟹はまだそんなに遠くには逃げていない筈だった。総指揮官の雁金検事は逡《たじ》ろぐ気色もなく直ちに現場附近の捜査を命じたのだった。警官隊はキャバレー・エトワールの屋外と屋内、それから痣蟹の逃げこんだ隠れ柱との三方に分れて、懸命の大捜査を始めたのだった。
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