「おお、青竜王は何処へいったのか」
 と、雁金検事は始めて気がついた様子で左右を見廻わした。
「青竜王?」
 検事につきそっていた首脳部の人たちも同じように左右を顧《かえり》みた。だが彼の姿はどこにも見えなかった。
「さっきまでその辺にいたんだが、見えませんよ」と大江山課長は云った。
「また何処かへとびだしていったんだろう」
「イヤ雁金検事どの」課長は改まった口調で呼びかけた。「貴官《あなた》はあの青竜王のことをたいへん信用していらっしゃるようですが、私はどうもそれが分りかねるんです」
 と、暗に覆面探偵を疑っているらしいような口ぶりを示した。
「はッはッはッ。あの男なら大丈夫だよ」
「そうですかしら。――そう仰有《おっしゃ》るなら申しますが、さっき暗闇の格闘中のことですが、いくら呼んでも返事をしなかったですよ。そして唯、あの『赤い苺の実』の口笛が聞えてきました。それから暫くすると、急に青竜王の声で(痣蟹はここにいますぞオ)と喚《わめ》きだしたではありませんか。その間《かん》、彼は何をしていたのでしょう。なにしろ暗闇の中です。何をしたって分りゃしません」
 人殺しだって出来るとも云い
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