かには、物凄い呻《うな》り声を交えて、不気味な格闘が行われていることだけが分った。
警官隊は、倒れた卓子や、逃《に》げ惑《まど》っているキャバレーの客たちを踏み越え掻き分けて、呻り声のする方へ近づいていった。が、また捲き起る混乱のために、その呻り声がどこかへ行ってしまった。
「どこにいるのだ、青竜王!」
「青竜王、声を出して下さーい!」
雁金検事たちは、大声で探偵の名を呼んだが、その応答は聞こえなかった。
「オーイ皆、ちょっと静かにせんかッ」
大江山課長が破《わ》れ鐘《がね》のような声で呶鳴った。
その声が皆の耳に達したものか、一座はシーンとした。
「オイ、青竜王、どこにいるのだッ」
検事は暗黒の中に再び呼んだ。――
だが、誰も応《こた》えるものはなかった。一同は闇の中に高く動悸《どうき》のうつ銘々《めいめい》の心臓を感じた。
(どうしたのだろう?)
そのとき正面と思われる方向の闇の中から軽い口笛の音が聞えだした。
[#ここから1字下げ]
「あたしの大好きな
真紅な苺の実
とうとう見付かった
おお――
あなたの胸の中……」
[#ここで字下げ終わり]
ああ、いま流
前へ
次へ
全141ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング