行の『赤い苺の実』の歌だ。竜宮劇場のプリ・マドンナ赤星ジュリアの得意の歌だった。――
「こら、誰だ。――」と大江山課長は叫んだ。「こんなときに呑気《のんき》に口笛を吹く奴は、あとで厳罰に処するぞ」
呑気な口笛――と捜査課長は云ったけれど、それは決して呑気とは響かなかった。なぜなら口笛は、警官の制止の声にも応じないで、平然と吹き鳴っていた。墓場のような暗黒と静寂の中に……。
「こら、止《や》めんか。止めないと――」
と大江山課長が火のようになって暗がりの中を進みいでたとき、呀《あ》ッという間もなく、足許に転がっている大きなものに突当り、イヤというほど足首をねじった。その途端に、足許に転がっていたものが解けるようにムクムクと起き上って、激しい怒声と共に格闘を始めたから、捜査課長は胆《きも》を潰《つぶ》してハッと後方《うしろ》へ下った。
「青竜王はここにいるぞッ」と格闘の塊《かたまり》の中から思いがけない声が聞えた。
「なにッ」
「痣蟹を早く押《おさ》えて――」
雁金検事はその声に活路を見出した。
「明りだ、明りだ。明りを早く持ってこい」出口の方から、やっと手提電灯《てさげでんとう》が
前へ
次へ
全141ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング