客席の灯火《あかり》はまたもや薄くなった。いよいよこんどこそは、痣蟹が現れるだろう。
「もう十一時に五分前です」
課長は卓子《テーブル》の下で、拳銃《ピストル》の安全装置を外した。
検察官一行の緊張を余所《よそ》に、客席ではまた嵐のような拍手が起った。美しい光の円錐の中に、ジュリアを始め三人の舞姫たちが、絢爛《けんらん》目を奪うような扮装して登場したのであったから。カスタネットがカラカラと鳴りだした。一座の得意な出しもの「赤い苺の実」のメロディが響いてくる。……
「こいつはいかんじゃないですか。三人の女優が、みな覆面をしとる」
と雁金検事が隣席の大江山課長に囁いた。
「これは舞台でもこの通りやるんです。それに真逆《まさか》痣蟹があの美しい女優に化けているとは思いませんが……」
「だが見給え。この夜の十一時という問題の時刻に、女優にしろ、あのような覆面が出てくるのはよくないと思いますよ。それにあの長い衣裳は、女優の頤と頸のあたりと、手首だけを出しているだけで、殆んど全身を包んでいますよ。よくない傾向です」
「じゃあ命じて女優の覆面を取らせましょうか」
そういった瞬間だった。予告な
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