いかと気をつけているんだが、見当りませんね。痣蟹は顔半面にある痣を何とかして隠して現われない限り、警官に見破られてしまいますからな」
「イヤそれなら、命令を出して十分注意させてあります」
ジュリアの独唱のいくつかが終って、ちょっと休憩となった。嵐のような拍手を背にして彼女がひっこむと、客席はまた元の明るさにかえって、ジャズが軽快な間奏楽を奏しはじめた。警官隊はホッとした。
「きょうは貴下の御親友である名探偵青竜王は現われないのですか」
と大江山は莨《たばこ》に火を点《つ》けながら、雁金検事に尋ねた。
「さあ、どうですかな。先生この頃なにか忙しいらしく、一向出てこないです。しかし今夜のことを知っていれば、どこかに来てるかも知れませんな」
覆面の名探偵は、検事の親友だった。覆面の下の素顔を知っているものは、少数の検察官に止まっていた。青竜王に云わせると、探偵は素顔を事件の依頼者の前でも犯人の前でも曝《さら》すことをなるべく避けるべきであるという。だから一度雑誌に出た彼の素顔の写真というのがあったが、あれももちろん他人の肖像だったのである。
再び、トランペットの勇ましい音が始まって、
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