でもって、新聞記者団を応接室へ呼び入れた。ドヤドヤと入ってきた一同は、たちまち課長をグルッと取巻いてしまった。
「五分間厳守! あとは云わんぞ」
と、課長は先手をうった。
「すると本庁では事件を猛烈に重大視しているのですネ」
と、早速記者の一人が酬《むく》いた。
「犯人は精神病者だということですが、そうですか」
と、他の一人が鎌《かま》をかけて訊《き》いた。
「犯人はまだ決定しとらん」
課長は口をへの字に曲げていった。
「法医学教室で訊くと被害者の血は一滴も残っていなかったそうですね」
「莫迦《ばか》!」課長は記者の見え透いた出鱈目《でたらめ》を簡単にやっつけた。
「犯人は、被害者の実兄だと称している西一郎(二六)なのでしょう」
「今のところそんなことはないよ」
「西一郎の住所は?」
「被害者と同じ家だろう?」
「冗談いっちゃいけませんよ、課長さん。被害者は下宿住居《げしゅくずまい》をしているのですよ。本庁はなぜ西一郎のことを特別に保護するのですか」
「特別に保護なんかしてないさ」
課長は椅子にふん反《ぞ》りかえった。
しかし被害者の実兄の住所を極秘にしていることは、何か特
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