別のわけがなければならなかった。課長がすこし弱り目を見せたところを見てとった記者団は、そこで課長の心臓をつくような質問の巨弾を放ったのだった。
「三年ほど前、大胆不敵な強盗殺人を連発して天下のお尋ね者となった兇賊《きょうぞく》痣蟹仙斎《あざがにせんさい》という男がありましたね。あの兇賊は当時国外へ逃げだしたので捕縛を免れたという話ですが、最近その痣蟹が内地へ帰ってきているというじゃありませんか。こんどの殺人事件の手口が、たいへん惨酷なところから考えてあの痣蟹仙斎が始めた仕業だろうという者がありますぜ。こいつはどうです」
「ふーむ、痣蟹仙斎か」課長は眉を顰《ひそ》めて呻《うな》った。「本庁でも、彼奴《あいつ》の帰国したことはチャンと知っている。こんどの事件に関係があるかどうか、そこまで言明の限りでないが、近いうち捕縛する手筈になっている」
 と云ったが、大江山課長は十分痛いところをつかれたといった面持だった。痣蟹仙斎の、あの顔半分を蔽《おお》う蟹のような形の痣が目の前に浮んでくるようだった。
「それでは課長さん。これは新聞には書きませんが、痣蟹の在所《ありか》は目星がついているのですね」
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