も知れない」
「ほう、日記帳!」大辻は何を思ったか、屍体のところへ飛んでいった。そして屍体の背中をすこし持ちあげると、その下に隠されていた小さな黒革の日記帳をとりだした。彼はその日記帳の頁をパラパラと繰《く》っていたが、突然|吃驚《びっくり》して、大声で叫んだ。
「ああ大変じゃ。――オイ勇坊、誰かこの日記帳から何十頁を切り裂いて持っていったぞ。先刻《さっき》調べたときには、こんなことがなかったのに……」


   奇怪な挑戦状


 その翌日の午《ひる》さがり、警視庁の大江山《おおえやま》捜査課長は、昨夜来《さくやらい》詰《つ》めかけている新聞記者団にどうしても一度会ってやらねばならないことになった。
 その日の朝刊の社会面には、どの新聞でもトップへもって来て三段あるいは四段を割《さ》き、
「帝都に吸血鬼現る?
  ――日比谷公園の怪屍体――」
 とデカデカに初号活字をつかった表題で、昨夕《ゆうべ》の怪事件を報道しているところを見ても、敏感な新聞記者たちは早くもこれが近頃珍らしい大々事件だということを見破ったものらしい。
 大車輪で活動を続けている大江山課長は五分間だけの会見という条件
前へ 次へ
全141ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング