い》だったのだ!
「ああ、あたしは……」と妖女は胸を大濤《おおなみ》のように、はげしく慄《ふる》わせた。思いがけない大きな驚きに全く途方《とほう》に暮れ果てたという形だった。
「やっぱり、刺し殺すのだ!」
 と叫んで、妖女は再び鋭いナイフをふりあげたが、やがて力なく腕が下りた。
「どうして貴下が殺せましょう。妾の運命もこれまでだ!」
 そういった妖女は、青竜王の身近くによると、戒《いまし》めの縄をズタズタに引き切った。しかし青竜王は覆面をとられたことさえ気がつかない。――妖女はいつの間にか、この荒れ果てた部屋から姿を消してしまった。
 かくて風前《ふうぜん》の灯《ともしび》のように危《あやう》かった青竜王の生命は、僅かに死の一歩手前で助かった。


   大団円《だいだんえん》、死の舞踊《ぶよう》


「――検事さん! 雁金さんは何処へ行かれた?」
 と、慌《あわ》ただしく、検事局の宿直室に飛びこんで来たのは、大江山捜査課長だった。
「おう、どうしたかネ、大江山君」
 検事は書見《しょけん》をやめて、大きな机の陰から顔をあげた。
「ああ、そこにおいででしたか。喜んで下さい。とうとうポン
前へ 次へ
全141ページ中127ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング