うな妖女《ようじょ》の手が動いて、黄昏の空気がキラリと閃《ひか》ったのは、彼女の翳《かざ》した薄刃のナイフだったであろう。いまやその鋭い刃物は、不運なる青竜王の胸に飛ぶかと見えたが、そのとき何を思ったか、妖女は空いていた左手をグッと伸べて、青竜王の覆面に手をかけた。
「そうだ。誰も知らない青竜王の覆面の下を、今際《いまわ》の際に、この妾が見て置いてあげるよ……」
 そう独言《ひとりごと》をいって、彼女はサッと覆面を引き※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》った。その下からは思いの外若い男の顔が現れた。両眼を力なく閉じているが、そのあまりにも端正《たんせい》な容貌!
「ああ、貴下は……西一郎!」
 そう叫んだのは同じ妖女の声だったが、咄嗟《とっさ》の場合、作り声ではなく、彼女の生地《きじ》の声――珠《たま》のように澄んだ若々しい美声《びせい》だった。――ああ、とうとう探偵の覆面は取り去られたのだった。いま都下に絶対の信用を博《はく》している名探偵青竜王の正体は、白面《はくめん》の青年西一郎だったのだ。そして吸血鬼に屠《ほふ》られた四郎少年こそは、彼と血を分けた愛弟《あいて
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