》びた。
「あの――お姉さま」と千鳥がトントンと間の板壁を叩いた。
「お姉さまが黙っていると、なんだか、独《ひとり》ぽっちでいるようで怖いのよ。あたし、お姉さまのところへ入っていってはいけないこと?」
「あらいやだ。まあ早くお洗いなさいよ。――そう、いいことがあるわ。じゃあ、あたしがここで歌を唄ってあげるわ。世話の焼ける人ネ」
そういってジュリアは千鳥のために、美しい口笛を吹きならしたのであった。その歌はいわずと知れた彼女の十八番《おはこ》の「赤い苺の実」の歌だった。
千鳥もそれに力を得たか、騒ぐのをやめてシャーッと噴泉の栓をひねって、しなやかに伸びた四肢《しし》を洗いはじめた。
それから何分のちのことだったかよく分らないが、この噴泉浴室の中から、突如として魂消《たまぎ》るような若い女の悲鳴が聞えた。それは一人のようでもあり、二人のようでもあった。と、途端《とたん》にガチャーンといって硝子《ガラス》の破《わ》れるような凄《すさま》じい音がして、これにはクラブ館《ハウス》の誰もがハッキリと変事《へんじ》に気がついたのだった。
いつもは男子絶対|禁制《きんせい》の婦人浴場だったけれ
前へ
次へ
全141ページ中111ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング