いよ儂《わし》たちは新聞の社会面でレコード破りの人気者となったよ。第一千鳥の神隠《かみがく》しはどうなったんだ。玉川ゴルフ場から十分ぐらいの半径《はんけい》の中なら、一軒一軒当っていっても多寡《たか》が知れているではないか。どうして分らぬのか、分らんでいる方が六《むつ》ヶ|敷《し》いと思うが……」
「イヤそれが不思議にも、どうしても分らないのです。ひょっとすると、犯人は夜のうちに千鳥をもっと遠いところに移したかもしれないのです。しかし御安心下さい。あの犯人も吸血鬼も、同一人物だと睨《にら》んでいて、別途《べっと》から犯人を探しています」
「別途からというと、君の覘《ねら》っている犯人というのは誰だい」
「ポントス――つまりキャバレーの失踪《しっそう》した主人ですネ。部下は懸命に捜索に当っています。今明日中《こんみょうにちじゅう》にきっと発見してみせますから」
「彼奴《きゃつ》はもう死んでいるのじゃないか」
「死んでいてもいいのです。ポントスの持っている秘密が、恐怖の口笛にまつわる吸血鬼事件の最後の鍵なんです」
「ほほう」と検事は目を丸くして「では儂が首を縊《くく》らん前に、事件の真相を報告するようにしてくれ給《たま》え」
 大江山が帰ると間もなく、覆面探偵から電話がかかって来た。
「雁金さん。いよいよ犯人を決定するときが来ましたよ」
「ほほう。イヤこれは盛《さか》んなことだ」
「まぜかえしてはいけませんよ。それで一つ、お願いがあるのですけれど……」
「犯人を国外に逃がす相談なら、今からお断《ことわ》りだ」
「そうではありません。実は今夜、たしかに吸血鬼と思われる怪人物から会見を申込まれているのです」
「うん、それはお誂《あつら》え向《む》きだ。では新選組《しんせんぐみ》を百名ばかり貸そうかネ」
「いえ、向うでは僕一人が会うという条件で申込んで来ているのです」
「そんな勝手な条件なんか、蹂躙《じゅうりん》したまえ」
「そうはいかないですよ。――で僕は独《ひと》りで会うつもりなんですが、もし今夜九時までに、僕が貴下《あなた》のところへお電話しなかったら、貴下の一番下のひきだしの中に入っている手紙をよんで下さい」
「なんだ、手紙が入っているんだって?」なるほど誰がいつの間に入れたか、白い四角な封筒が入っていた。「あったあった。こんなもの直《す》ぐ明けられるじゃないか」

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