だが、まだ私に媒酌《なこうど》を頼みに来ないネ」と課長は更に機嫌がよかった。
「よして下さい。ジュリア君の人気に障《さわ》りますよ」と一郎が打ち消すのを、ジュリアは、
「あら、あたしは課長さんにぜひお願いしたいわ。でも一郎さんは、あたしがお嫌いなのよ。どうせあたしは独りぽっちで、地獄へ墜《お》ちてゆくのだわ――」
 とジュリアはヒステリックに云って、ハンカチーフを鼻に当てた。彼女の打数《だすう》はいよいよ荒れていった。
 そんな風にして、コースを一|巡《じゅん》した結果は、大江山がズバ抜けて成績がよく、ずっと落ちて普通の成績を示したのが蝋山教授と矢走千鳥で、雁金検事も西一郎も更に振わず、ジュリアに至っては荒れ切った悪成績だった。
「イヤ恐ろしい成績表だ。全く恐ろしい」
 と雁金検事は首を振って一郎の顔をみた。
「全く、こんなに恐ろしく打てようとは、当人の方で面喰《めんくら》っているところですよ」
 と大江山課長は自分のことが問題にされているんだと早合点《はやがてん》して、極《きま》り悪《わ》る気《げ》にいった。
「時間があれば、もっと廻りたいのだが……」
 と検事が云ったが、凄《すご》い当りをみせた大江山も至極《しごく》同感《どうかん》だった。しかしジュリア達の出演時刻のこともあるので、時間が足りないから止《や》めにした。その代り検事と課長は練習場で、球《ボール》を戞《か》ッ飛ばしに出ていった。ジュリアと千鳥とは、その間にクラブ館《ハウス》の奥にある噴泉浴《ふんせんよく》へ出かけた。蝋山教授と一郎とは、青々としたグリーンを眺められる休憩室の籐椅子《とういす》に腰を下ろして、紅茶を注文した。こうして六人の同勢は三方に別れた。
 大江山課長は人気のない練習場でクラブを振りながら、雁金に話しかけた。
「検事さん。今日の集りの真意《しんい》はどこにあるのですかなア」と先刻《さっき》から聞きたかったことを尋《たず》ねた。
「うん――」と雁金は振りかけたクラブを止めて、「儂《わし》にもよく分らぬが、これは青竜王の注文なのだ」
「えッ、青竜王の注文?」と課長はサッと青ざめた。
「彼はゲームの結果を知りたがっていた。さし当《あた》り、君の大当りなんか、何といって彼が説明するだろうかなア。はッはッはッ」
 外国の名探偵が、真犯人を探し出すために、嫌疑者《けんぎしゃ》を一室にあつめてト
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