最初の競技は二組に分れることになった。ジャンケンをすると、第一組は雁金検事、蝋山教授に矢走千鳥、第二組は大江山と西一郎に赤星ジュリアと決まった。
 まず第一組が球《ボール》をティに置いては、一人一人クラブを振って打ち出していった。それから五分ほど遅れて、第二組がティの上に立った。
「課長さんのお相手をしようなどとは、夢にも思っていませんでしたわ」
 とジュリアが笑った。
「課長さん――は競技の間云わないことにしましょうよ、お嬢さん」
「あら――ホホホホ」
 大江山はすっかりいい気持になってしまった。――ジュリアが最初に打ち、次に大江山が打った。一番あとを西一郎が打つと、三人はキャデーを連れて、青い芝地の上をゾロゾロ球《ボール》の落ちた方へ歩きだした。
「君たちに会おうとは思いがけなかった」
 と、課長は一郎の方を向いて破顔《はがん》した。
「雁金さんのお誘いなんです。丁度ジュリア君も元気がないときだったんで、たいへんよかったですよ」と一郎が答えた。
「ほう、お嬢さんはどこか悪いのかネ」
「あら、嘘。――このとおり元気ですわよ」
 といったが、第一の球はジュリアが一番成績が出なかった。
 第二のティで球を打つと、ジュリアの球は横に曲《まが》って、一時二人に離れた。
「オイ西君」と課長は冗談ともなくそっと連れに囁《ささや》いた。「このあたりに混血児はいないかネ」
「混血児で一番近いのは、アレですよ」と一郎はジュリアの方を指《ゆびさ》した。
「なにジュリアか」とハッとした風であったが、「そう云われると、なるほどジュリアは混血児みたいなところがあるが……私の云っているのは、この玉川附近にもう七十歳ぐらいになる混血児が住んでいるのを知らないかというのだ」
「そんなのは居ませんよ」
「いないというのかネ。君はハッキリ云うから愉快だ、何も知らない癖《くせ》に……」
 と独《ひと》り合点《がてん》の課長は、斜《ななめ》ならざる機嫌に見えた。しかし後に分るようにこれらの会話は決して冗談ではなかった。それが持つ重大な意味が今課長に分っていたとしたら、彼はそんなに恵比寿顔《えびすがお》ばかりはしていられなかったであろう。――ジュリアは球《ボール》をグリーンに入れて、二人の方へ手をさしあげた。
 第三のコースでは、また三人が一緒になって球を打っていった。
「君たちはだいぶ仲がいいよう
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