うかも知れない。「その子供というのはポントスのことじゃないのかネ」
「ポントスは本当のギリシア人ですよ。あいつはパチノ墓地を探しに来て、その墓地の上だとは知らずに、あのキャバレーを開いていたのです」
「ポントスでなければ誰だい。それとも痣蟹かネ」
「痣蟹は日本人ですよ。青竜王が探しているのは混血児ですよ」
混血児を探しに玉川へ行った――ということを聞きだした大江山は、鬼の首でも取ったような気がした。これなら或いは分らぬこともあるまい。
大江山課長は玉川へ自動車を飛ばした。しかし玉川という地域は、人家こそ疎《まば》らであったが、なにしろ広い土地のことだから、どこから調べてよいか見当がつかない。そこで彼は、なるべく混血児の出没《しゅつぼつ》しそうなところはないかと思ったので、秋晴《あきばれ》の停留場の前に立っている土地の名所案内をズラリと眺めまわしたが、そこで目に留《とま》ったのは、「玉川ゴルフ場」という文字だった。
ゴルフ場に混血児――はちょっと似つかわしいと思った。彼は雁金検事に誘《さそ》われて、いささかゴルフを嗜《たしな》んだ。この秋晴れにゴルフは懐《なつか》しいスポーツであったが、なんの因果《いんが》か、今日は懐しいどころか、わざわざお苦しみのためにゴルフ場を覗《のぞ》きに行かねばならないことを悲しんだ。
車を玉川ゴルフ場に走らせたまではよかったけれど、クラブの玄関をくぐるなり、
「いよオ、大江山君。これはどうした風の吹きまわしだい」
と背中を叩く者があった。ハッと思って後をふりかえってみると、そこには思いがけなくも、雁金検事がゴルフ・パンツを履いてニヤニヤ笑っていた。そればかりではない。検事の後には、彼の馴染《なじみ》の顔がズラリと並んでいたので駭《おどろ》いた。それは蝋山教授、西一郎、赤星ジュリア、矢走千鳥《やばせちどり》という面々で、これでは吸血鬼事件の関係者大会のようなものだった。ただ肝腎《かんじん》の覆面探偵青竜王とキャバレーの主人ポントスとが不足していたが、この二人もどこからか現れてきそうであった。
「丁度《ちょうど》いい。一緒にホールを廻ろうじゃないか」と検事は腕を捉《とら》えた。
「ぜひそう遊ばせな。――」とジュリアたちも薦《すす》めた。
結局大江山課長は、その仲間に入った。背広を着てきたので、恥をかかずに済《す》んだのは何よりだった
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