際《みずぎわ》だった操縦ぶりは、演習という気分をとおりすぎて、むしろ実戦かと思われるほど壮快無比なもので、イヤ壮快すぎて、物凄《ものすご》いと云った方が当っているくらいだった。いつも三機|雁行《がんこう》の、その先登に立っていた司令機内のこの儂は、反射凸面鏡《はんしゃとつめんきょう》の中に写る僚機の、殺気だった戦闘ぶりを、ちょいちょい眺めては、すくなからず心配になってきたものだ。夕刻に近づくと、かねて気象警報が出ていたとおり、灰色の雲は低く低くたれ下って来、白く浪立《なみだ》ってきた洋上に、霧がすこしずつ濃くなってくるのだった。
(今夜は、どうしても一《ひ》と嵐《あらし》くるな)
味方にとっては、いよいよ事態は不幸に向っていった。西に傾《かたむ》いた太陽は、密雲《みつうん》の蔭にスッカリ隠れてしまったり、そうかと思うと急にその切れ目から顔を現わして、真赤な光線を、機翼《きよく》に叩きつけるのだった。丁度、そのときだった。あの一|大椿事《だいちんじ》が突発したのは……。
ここまで云えば、君達も感付いたろうが、この椿事は、翌朝の新聞紙に『大演習の犠牲。青軍の戦闘機二機、空中衝突して太平
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