洋上に墜つ。乗組の竹花、熊内両中尉の死体も機影《きえい》も共に発見せられず。原因は密雲《みつうん》のためか……』などと書きたてられたあの事件なのだ。海軍当局の調査も、新聞の報ずるところとは大した相違がなかった。無論、現場《げんじょう》付近にいた唯一《ゆいつ》の人間である儂は、調査委員会の席上で証言をさせられてこんなことを云った。『青軍《せいぐん》の危急《ききゅう》を救うべく、敵前《てきぜん》に於《おい》て危険きわまる低空の急旋転《きゅうせんてん》を行いたるところ、折柄《おりから》洋上には密雲のために陽光暗く、加うるに霧やや濃く、僚機との連絡至難となり、遂に空中衝突を惹起《じゃっき》せるものなり』てなことを云ったので、不可抗力《ふかこうりょく》の椿事《ちんじ》として、両中尉は戦死と同格の栄誉を担《にな》ったわけだった。だが此処《ここ》に話がある!
 儂は僚友のために、実は偽《いつわ》りの報告をしたのだった。事実はこうだった、いいかね。あのとき、洋上を飛翔《ひしょう》していた儂は、いつの間にやら僚機から遠く離れてしまっているのに気がついたのだった。吃驚《びっくり》して後を見ると、遙か下の空
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