で、二機はしきりに横転《おうてん》をやっているじゃないか。これは無論、儂の指令じゃない。なにか故障を起したのかなとも考えたので、儂は方向舵《ほうこうだ》を静かに廻しながら、尚《なお》も注意していると、どうも故障とは様子がちがう。一機が他の一機を執拗《しつよう》に追いかけているようなのだ。一機が、思いきった逆宙返《ぎゃくちゅうがえ》りをうって遁《のが》れると、他の一機も更に鮮《あざや》かな宙返りをうって迫り、機翼と機翼とがスレスレになるのだった。儂は、この追駆《おいか》けごっこが、冗談ではないことに直ぐ気がついた。このまま抛《ほう》って置けば、二人とも死ぬ。何とかして二人を引離す頓智《とんち》はないものかと考えたが、咄嗟《とっさ》のこととて巧《うま》い術策《すべ》が浮かんでこない。
望遠鏡を目にあてて、よくよく眺めてみると、歯を剥《む》いて追っかけている方は、熊内中尉だった。追いかけられているのは竹花中尉、中尉の顔が、丁度雲間から現われた斜陽《はすび》を真正面に浴びて、儂のレンズの底にハッキリと映じたが、彼は飛行帽も眼鏡もかなぐり捨てて、片手を空《むな》しく顔前《がんぜん》にうち振り、
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