星宮理学士は、長い箸《はし》を器用に使って、黄色味がかったプリプリするものを挾《はさ》みあげると、ヒョイと口の中に抛《ほう》りこんで、ムシャムシャと甘味《うま》そうに喰べた。
「そうです、これは一種異様の味がするでしょう。お気に入りましたか星宮君」と軍医は照れたような薄笑いを浮べ、ダンディらしい星宮理学士の口許《くちもと》に射るような視線をおくった。
「そうかね、僕の方の栄螺は、別に変った味もないが、どうれ……」と大尉は、向うから箸をのばして、星宮理学士の壺焼の中を摘もうとした。
「吁《あ》ッ、川波大尉」駭《おどろ》いたように軍医はそれを遮《さえぎ》った。「まだ栄螺は、こっちにもドッサリありますから、こっちのをおとり下さい。なにも、星宮君が陶酔《とうすい》している分をお取りなさらなくても……」
 そういって、何故か軍医は、大尉の前に別の壺焼を置いたのだった。
「あ、そうか、これはすまない」と、大尉はちょっと機嫌を損じたが、アルコールの加減で、すぐ又元のような上機嫌に回復した。「こんなに新しいと、いくらでも喰えるね」
「いや、今僕の喰ったやつは、中で一番違った味をもっていてね、珍らしい栄
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