学に関する動物実験なので、気圧の低くなった硝子鐘《ガラスがね》のなかに棲息《せいそく》するモルモットの能力について、これから一時間毎に、観測をしてゆこうというのだった。大尉は専《もっぱ》ら指揮を、理学士は器械部の目盛を読むことを、そして軍医がモルモットの動物反応を記録するのが役目だった。この三人の学者は、毎時間に、五分間を観測と記録に費《ついや》すと、故障の突発しないかぎり、あとの五十五分間というものを過ごすのに、はなはだ退屈《たいくつ》を感ずるのだった。
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「この調子で、暁け方まで頑張るのは、ちと辛いね」と大蘆原軍医が、ポケット・ウィスキーの小さいアルミニューム製のコップを、コトリと卓上《テーブル》の上に置きながら云うのだった。
「軍医どのの栄螺《さざえ》料理が無ければ、儂《わし》は五十五分間ずつ寝るつもりだった」と川波大尉が、ポカポカ湯気《ゆげ》のあがっている真黒の栄螺の壺《つぼ》を片手にとりあげ、お汁をチュッと吸ってから、そう云った。
「大蘆原軍医殿は、この栄螺の内臓を珍重《ちんちょう》されるようだが、僕はこんな味のものだとは、今日の今日まで知らなかった」と、
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