螺だった」と、理学士はまだ惜しそうに、空《から》になった殻《から》を振り、奥の方に箸をつきこみながら、舌なめずりをした。「やあ、いくら突ついても、もうでてこないや」
「僕の御馳走が、お気に召して恐縮《きょうしゅく》だ」大蘆原軍医は、ウィスキーをつぎこんでも、一向赤くならない顔をあげていった。「だが、食うものがボツボツ無くなり、こう腹の皮が突っ張ってきたのでは、一層睡くなるばかりだね。――それじゃ、どうだろう。これから皆で、一時間ずつ交替で、なにかこう体験というか、実話というか、兎《と》に角《かく》、睡気《ねむけ》を醒《さ》ます効目《ききめ》のある話――それもなるたけ、あまり誰にも知られていないという話《やつ》を、此の場かぎりという条件で、喋《しゃべ》ることにしちゃ、どうだろうかね」
「ウン、そりゃ面白い」と星宮理学士が、すぐ合槌《あいづち》をうった。
「いま九時をすこし廻ったところだから、これから十時、十一時、十二時と、丁度《ちょうど》真夜中《まよなか》までに、三人の話が一とまわりするンじゃ。川波大尉殿、まず君から、なにかソノ秘話《ひわ》といったようなものを始め給え」
「儂《わし》に口
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