敵手の頸《くび》を締めつけた。学士は朦朧《もうろう》と落ちてゆく意識のうちに、頻《しき》りに口を大きくひらいては喘《あえ》いでいた。だが彼の執念《しゅうねん》ぶかい両手は、なおも大尉の急所を掴んでそれを緩《ゆる》めようとはしなかった。この儘《まま》に捨てておくと、二人とも共軛関係《きょうやくかんけい》において死の門をくぐるばかりだった。
「紅子、うう射て……ピストル、いいから……」
 大尉の声は、切れ切れに、蚊細《かぼそ》く、夫人の援助をもとめたのだった。
 このとき紅子は、いつの間にやら、右手にしっかりとピストルを握りしめていたが、夫大尉のこの声をきくと、莞爾《かんじ》とほほえんだ。
「いいこと!」
 紅子のしなやかな腕がグッと前に伸びる。キラリとピストルの腹が光って、引金がカチリと引かれた。
「ズドーン!」
 銃声一発――大尉と学士とは、壁際《かべぎわ》から同体に搦《から》みあったまま、ズルズルと音をさせて、横に仆《たお》れた。
 ピストルの煙が、やっと薄らいだとき、仆れた二人のうちの一人が、フラフラと半身を起した。それは大尉にはあらで、意外にも星宮理学士だった。
 彼は、紅子が一
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