発のもとに射ち殺したのは、彼女の夫君《ふくん》である川波大尉だと知ると、咄嗟《とっさ》のうちに気をとり直し、威厳をつけて、ノッソリ起きあがると、フラフラと紅子の方に歩みよるのだった。
「星宮君。ここへ懸け給え」
 このとき、静かに云ったのは、この場の生命のやりとりに、一と言も口を利かず、片腕もあげなかった奇怪の人物、大蘆原軍医《おおあしはらぐんい》だった。自分の名をよばれると、流石《さすが》の星宮理学士も、ギョッとして、その場に立ち竦《すく》んだ。
「星宮君。私の第三話が、もうすこしで、尻切《しりき》れ蜻蛉《とんぼ》になるところだった。幸い君は生命をとりとめたようだから、サアここへ坐って、あの話の続きを聞いてくれ給え」
 軍医は、落着きはらって、空虚になった二つの椅子を指した。学士は、眼に見えぬ糸に操《あやつ》られるかのように、ヨロヨロとよろめきながら、やっとその椅子の傍まで近付くと、崩れるように、その上に腰を下ろした。
「……」
「さア、いいかね、星宮君。さっきは、僕に手術を頼んだ娘の次兄というのが、素晴らしい復讐方法を、妹をかどわかした男に加えるため、考えついた、というところまで話
前へ 次へ
全37ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング