、いきなり大尉の脇腹を力一杯
「ウン!」
 と蹴とばしたが、この時遅し、大尉は素早く、身体を左に開いたので、気絶することから、辛《かろ》うじて免れたが、その代り、二人の身体は、もつれあったまま、もんどり打って床の上に仆《たお》れてしまった。二人は跳ねおきようと、互《たがい》に死物《しにもの》ぐるいの格闘をつづけ、机をひっくりかえし、書類箱を押したおしているうちに、どうした弾《はず》みか、ピストルが星宮理学士の手許をはなれ、ガチャンと音をたてて、向うの壁に叩きつけられた。
「さあ、この野郎。ほざけるなら、ほざいてみろ!」
 そう云って、いかにも勝ちほこった名乗をあげたのは、川波大尉だった。星宮理学士は大尉の逞《たくま》しい腕にその細首をねじあげられて、ほとんど宙にぶらさがっていた。が、どんな隙《すき》があったのだろうか、学士は両手を大尉の股間《こかん》にグッと落とすと、無我夢中になって大尉の急所を掴《つか》んだのだった。
「ウーム」
 と大尉が呻《うな》った。彼の顔は赤くなり、青くなりしたが、これも死にもの狂いの形相《ぎょうそう》ものすごく、学士の身体をグッと手許へよせると、骨も砕けよと
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