のせいもあるだろうが、二十を過ぎたとは見えぬうら若い女性だった。その、少女とでも云いたいような彼女が、私に受けたいというのは、実は人工流産だというんだ。一体、人工流産をさせるには、医学的に相当の理由が無くては、開業医といえどもウッカリ手を下せないのだ。母体が肺結核《はいけっかく》とか慢性腎臓炎《まんせいじんぞうえん》であるとかで、胎児《たいじ》の成長や分娩《ぶんべん》やが、母体の生命を脅《おびやか》すような場合とか、母体が悪質の遺伝病を持っている場合とかに始めて人工流産をすることが、法律で許されてある。若《も》しこれに反して、別段母体が危険に瀕《ひん》してもいないのに、人工流産を施《ほどこ》すと、その医者は無論のこと、患者も共ども、堕胎罪《だたいざい》として、起訴されなければならない。
さて、その若い女の全身に亙《わた》って、精密な診断を施したところ、人工流産を施《ほどこ》すべきや否《いな》やについて、非常に困難な判断が要ることが判った。それというのが、打ちみたところ、この女は立派に成熟していたが、すこし心神《しんしん》にやや過度の消耗《しょうもう》があり、左肺尖《ひだりはいせん》に
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