黒との縮緬《ちりめん》の下に入っているものは、実は僕が関係した女たちから、コッソリ引き抜いてきた……」
「オイ星宮君、十一時がきた!」と、此の時横合いから口を入れた大蘆原軍医の声は、調子外《ちょうしはず》れに皺枯《しわが》れていた。
4
第三話 大蘆原軍医の話
「それでは私が、今夜の通夜物語の第三話を始めることにしよう」そう云って軍医はスリー・キャッスルに火をつけた。
「川波大尉どののお話といま聞いたばかりの星宮君の話とは全然内容がちがっている癖に、恋愛論というか性愛論というか、それが含まれているところには、一種連続点があるようだ。そこで、私の話も、勢いその後を引継いだように進めるのが、面白いように思う。ところが丁度ここに偶然、第三話として、まことに恰好な物語があるんだ。そいつを話すことにしよう。
実は今夜、私がここへ出勤するのが、常日頃に似合わず、大変遅れてしまって、諸君に御迷惑をかけたが(と云って軍医は軽く頭を下げた)何故私が手間どったのか、それについてお話しよう。
今夜七時、私の自宅に開いている医院に、一人の婦人患者がやってきたのだ。美貌《びぼう》
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