かに入ってきたので、また気が変な女でもやってきたのかと思ったよ。ハッハッハッ」と星宮理学士が、作ったような笑い方をした。
「いや、遅くなった。患者《かんじゃ》が来たもんで(と、『患者』という言葉に力を入れて発音しながら)手間がとれちまった。だが、お詫《わ》びの印《しるし》に、お土産を持ってきたよ、ほら……」
 そういって大蘆原軍医は、入口のところで何やら笊《ざる》の中に盛りあがった真黒なものを、さしあげてみせた。
「何じゃ、それは……」
「栄螺《さざえ》じゃよ、今日の徹夜実験の記念に、僕がうまく料理をして、御馳走をしてやるからね」大蘆原軍医はそう云ってから、笊《ざる》の中から、一番大きな栄螺を掴《つか》みあげると、二人のいる卓上《テーブル》のところまで持ってきた。磯《いそ》の香《か》がプーンと高く、三人の鼻をうった。すばらしく大きい、獲《と》れたばかりと肯《うなず》かれる新鮮な栄螺だった。
「大きな栄螺じゃな」と大尉は喜んだ。
「軍医殿は、人間のお料理ばかりかと思っていたら、栄螺のお料理も、おたっしゃなんだね」と、星宮理学士が野次《やじ》った。
 そこで三人の間にどっと爆笑が起った。だ
前へ 次へ
全37ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング