疑いもせで、泪《なみだ》を流して僕に感謝したばかりか、記念のためというので、奇妙な彫《ほり》の指環《ゆびわ》まで贈物として僕によこしたじゃないか。そのとき僕は、『御主人には黙っていられた方がいいですよ』と云うことを忘れなかった。心に空虚のあったB子夫人が、その胸に如何なる夢を描いたことやら、また其の夫君《ハズ》が出張にでかけた翌日、偶然のように訪ねていった僕をどんなに歓待《かんたい》したか。女なんか、新しがっても、本当は古い古いものなのさ」
こう云って星宮学士が、胸の底まで気持よく吸いこんだ煙草の烟を、フーッと静かに吐きだしたが、この話を傍できいていた川波大尉の顔面《がんめん》が、急にひきつるように硬《こわ》ばってきたのに、まるで気がつかないような顔をしていたのだった。
「それから、こんな話もある」と学士は第二話のつづきを又語りはじめるのだった。「こいつは、僕の一番骨を折った女だったが、カッキリ半年も懸った。無論その半年の間、僕はこの女ばかりを覘《ねら》っていたのでは無く、沢山の若い女を猟《あさ》りあるいている其《そ》の片手間《かたてま》に、一つの長篇小説でも書くつもりで、じっくり襲
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