いかかって行ったのだ。その女は、しっかりした家庭に育った九條武子《くじょうたけこ》のようなノーブルなお嬢さんだった。彼女の名前を、仮りにC子(とそう云って、星宮学士は何故かハッと呼吸を止めた)――そう、C子と呼ぼう。この少女は、はちきれるような素晴らしい肉体を持っているのに、精神的には不感性《ふかんしょう》に等しく、無類の潔癖《けっぺき》だった。すべて彼女の背後にある厳格な教育が、彼女をそうさせたのだった。二三度誘ったが、こりゃ駄目だと思った。そのままで賞味《しょうみ》してしまう手段はあったが、それでは充分|美味《おい》しく戴《いただ》けない。そう悟ったので、僕は一夜脳髄をしぼって、最も科学的な方法を案出した。幸い僕は家庭教師として、彼女に数学を教える役目を得たので、それで時々会っては、音楽会に誘った。次は映画の会へ連れてった。その映画も、教育映画から次第にロマンティックなものへ、それから辛《かろ》うじて上演禁止を免れたカットだらけの映画へ、更にすすんではカットのない試写ものへと移って行った。彼女は別に眉を顰《しか》めはしなかった。というのは、この速力が如何にも緩漫だったからだ。映画を
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