は何喰わぬ顔で勤務をしていながら、内心では蛇と狼とのように睨《にら》み合《あ》っていたのだ。彼等は悪竦《あくらつ》な手段で、お互《たがい》を陥《おとしい》れ合った。自分の血で、相手の骨を洗った。
その結果、Aという女は、遂に竹花中尉の方へ傾いてゆき結納《ゆいのう》までとりかわされ、この演習が済むと、直ちに水交社《すいこうしゃ》で婚礼が挙げられることにまで、事がきまっていたのだった。あわれ、恋に敗れた熊内中尉は、悪魔におのが良心を啄《ついば》むに委せた。そこで中尉の恐ろしい復讐が計画されたのだった。
『竹花にあの女を与えてなるものか。また、自分を此処まで引張《ひっぱ》りまわした女に、素直に幸福を与えてなるものか』そういって熊内中尉は歯を喰いしばったのだった。『ようし、見て居《お》れ、竹花のやつを、地獄へひきずりこんでやるんだ。やつが、おれの計画に感付いたとき、どんな泣きッ面をするか。そいつを見ることが、ああ、せめてもの娯《たの》しみだ。吠《ほ》えろ、喚《わめ》け、竹花中尉!』
熊内中尉の計画は見事に効を奏したのだった。儂があの時覗いた竹花中尉の『死』への反発『生』への執着《しゅうちゃ
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