の発明兵器として、どれを択んで持ち帰りなばよろしきや、さっぱり分らない。チーア卿たる者、宝の山に入りながら、あまりに夥《おびただ》しき宝に酔って急性神経衰弱症に陥ったきらいがないでもない。
 こうなると人間はいやでも単純に帰らざるを得ない。つまり、何でもよいから、持てるだけ持って帰ろうということだ。チーア卿は両手に抱えられるだけの設計書袋の束を二つ拵《こしら》えて、それをうんこらさと抱《かか》えあげると後をも見ずに金博士の部屋からおさらばを告げたのであった。盗み出した設計書の件数、しめて五十三件、さりとは慾のないことではある。


     3


 チャーチルの泥棒特使が仕事を終って去ったが、ルーズベルトの特使二人の方は、いつまでもまごまごしていた。
 が、彼らにもようやくチャンスは巡《めぐ》り来《きた》り今や彼等は駿馬《しゅんめ》の尻尾《しっぽ》の一条を掴《つか》んだような状況にあった。というのは、たまたま燻製屋台へ買いに来た金博士の若いお手伝いの鉛華《えんか》をルス嬢が勘のいいところで発見、そこへベラントが特技を注《そそ》ぎ込んで、たちまち鉛華をおのれたちの薬籠中《やくろうちゅう
前へ 次へ
全25ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング