》のものとしてしまったからである。
「旦那さまぐらい燻製ものに理解がおありになり、そして燻製ものをお好みになる方は世界に只《ただ》お一人でございますわよ」
 と、鉛華も遂《つい》に本当のことをぶちまける。いよいよチャンスは来たぞと、燻製屋に化けこんで苦労のかぎりを今日まで尽《つく》していたルスとベラントは、うれしさが腹の底からこみあげてくるのを一生懸命に押し戻し、
「まあ、そういう頼母《たのも》しい御方さまに巡り会いますなんて、神様のお引合わせですわ」
「そうだとも。それに……ちょっとこっちへ来てください、美しい鉛華さん」
「あら、お口がお上手なのね。警戒しますわ」
「いやなに、ざっくばらんの話ですが、貴女《あなた》が金博士にわれわれをとりもって下されば、博士の貴女に対する信頼は五倍も十倍も増しますよ。俸給《ほうきゅう》も上るでしょうし、うまいものも喰べられる。そればかりじゃない、われわれも儲けの一部を貴女に配当します。もちろんこれは断じて闇取引じゃない、正当なる利得ですし、それにねえ鉛華さん……」
 と、ベラントは此所《ここ》を先途《せんど》と商才のありったけをぶちまけて、遂に鉛華を
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