士のことであるから、あわてるチーア卿を相手にせず、ごろりと横になると、早《はや》ぐうぐうと大鼾《おおいびき》。
「もしもし博士、喰い逃げとは、そりゃひどい……」
と、卿は立上って博士をゆすぶり起そうとしたが、待てしばし。ここで無理に起して、臍《へそ》まがりの博士に又えらく臍をまげられては特使の目的を達することは出来ないと、苦しい我慢を張る。したがチーア卿とて只の鼠ではない。幸いあたりに睡る博士の外《ほか》に人はなし、秘密の研究室は自分の外に人眼《ひとめ》というものがない。この機会に乗《じょう》じて、金博士の最近の発明兵器を調べておいてやろうと、たちまちチーア卿は先祖から継承の海賊眼《かいぞくまなこ》を炯々《らんらん》と輝かし、そこらをごそごそやりだしたことである。
おどろいたことに、部屋の扉はみんな鍵がかかっていない。だからどの部屋へも入れた。金博士の実験室は、あまりにも雑然としていて、どれが研究の主体だか分らない。すばらしい毒|瓦斯《ガス》製造装置だと思って、たかの知れたキップの水素瓦斯発生装置を持って帰って笑われても詰《つま》らないと思ったチーア卿は、実験室には手をつけないこと
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