れた両特使は、棚にぎっちりと並んだ夥しい兵器模型にたちまち魂を奪われた。
「これは何でしょうか」
「これは何ですの」
「ああ、それは陳腐《ちんぷ》なものばかりじゃ。今列国の兵器研究所が、秘密に取上げているものばかりだよ。今頃そんなものに手をつけては手遅《ておく》れじゃ。こっちへ来なさい」
 博士は興味のない顔で次の室《へや》へ。
「この大金庫の中には、世界一を呼称《こしょう》する新兵器の設計書袋が五百五十種入って居る」
「ほう、五百五十種もですか」
「そうじゃ。さっき泥的チーア卿《きょう》が、この中の五十三種を攫《さら》っていってしまったよ」
「ええ、チーア卿が……あの、五十三種も……。それはたいへんだ」
「なあに、愕くには当らんよ。もうあと三十分もすれば、チーア卿は後悔するだろう」
「と申しますと……」
「あの五十三種の書類はあと約三十分すれば、自然発火するんじゃ」
「自然発火?」
「そうじゃ。この書類は一定の温度と湿度と気圧のところに在る限り安全じゃ。つまりこの部屋はその適切なる恒久状態においてある恒温湿圧室《こうおんしつあつしつ》なのじゃ。したが、一旦他へ搬ばれ温度と湿度と気圧が
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