あっても燻製料理によるのが捷径《しょうけい》だという鉄則を、ルス嬢もはずさない。はずさないばかりか、ルス嬢は躊躇《ちゅうちょ》の色もなく、博士の前に燻製バイソンなどを詰めあわせた食料容器の蓋をぽかんと払ったものである。


     4


 やっぱり効目《ききめ》があった。燻製料理は、金博士にとって、恰《あたか》もジーグフリードの頸《くび》に貼りついた椎《しい》の葉の跡のようなものであった。それが巨人に只一つの弱点だった。博士は今や羊のように温和《おとな》しくなって、前にルス嬢とベラント氏を座らせている。尤《もっと》も博士自身は、両人提供のバイソンの燻製を大皿にうつして、盛んにぱくついている有様だった。
 人見知りをしないで、核心《かくしん》にとびこんでいく心臓人種のアメリカ人のことなれば、嬢も氏も、こうなっては燻製屋の仮面をさらりとかなぐり捨て、ルーズベルトの特使でござると名乗りあげて、金博士の前に陣を構えているわけである。事は早くなければならない。「博士。飛切り上等の物凄い新兵器として何を提供して頂けましょうか」
「うむ。むにゃむにゃ……」
「それを使えば、敵側は全く処置《しょち
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