た。それで鉛華はわれに帰って、金博士に燻製をすすめる役を引受けたことを思出したが、こうなってはどうにもすすめようがない。その困り切った顔を見て取ったベラント、すかさず前にとび出し、博士に倚《よ》り添《そ》って聞き始める。
「金博士。私達は、燻製料理を持って伺いましたが、実はルーズベルトの特使でございまして……」
 と、臆《おく》せず底をぶちまけるアメリカ流に、博士は驚くかと思いの外《ほか》、
「分っとるよ。ベラントにルス嬢じゃろう。わしの発明兵器を、わしごと買い取りに来たのじゃろう」
 と、ずばり図星《ずぼし》をさした。ベラントの愕き、
「ええっ……」
 といったまま、あとが続かない。
 こういうときに婦人は度胸《どきょう》のある者、ベラントがノック・アウトされたと見て、前にとびだして博士の腕を抑える。
「今お呼び下すったルス嬢でございます。仰有《おっしゃ》ったとおりのわけですから、ぜひ契約して頂きとうございます。その代り博士のお望みは何なりと……それに特別精製のアメリカ名産バイソンの燻製を一口召上って下さいまし。これこそ世界最高の珍味でございます」
 金博士をくどくには、いつの時代に
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