ろではルスとベラントが心配そうな顔を見合わせる。
「燻製はもうたくさんじゃというのに。さっき、いやというほどカンガルーの燻製を喰ったよ。腹一杯になった」
「まあ、どうして召上ったのですか」
「泥棒がここへ持って来て、わしに喰えといった」
「泥棒が……」
「そうだよ。チーア卿といってな、チャーチル奴《め》の特使じゃよ。モヒ中毒を装った苦《に》が苦《に》がしい男じゃ」
「それが泥棒でございますか」
「大泥棒じゃ。あれを見よ。わしの大金庫から新兵器の設計書袋を二|抱《かか》えも持って逃げよった。怪しからん奴じゃ」
「まあ、それで先生は、その泥棒をお捕えにはなりませんでしたの」
驚きは鉛華よりも、後に控えたルーズベルトの特使ルス嬢とベラントの胸の中《うち》だった。折角《せっかく》来たが、チャーチルの特使に一足お先へやられてしまったとあっては、甚だ拙《まず》い。
「あの泥棒は逃がしてやった。それにわしはすっかり腹がくちくなって、指一本動かすのも大儀《たいぎ》じゃったからなあ」
「まあ、いつもの先生なら、決してお逃がしになるのではありませんでしたのに……」
ルス嬢はこのときそっと鉛華の袖を引い
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