しん》この横浜《はま》に流れて来たのも、所詮《しょせん》は大きいムッとするものを感じたせいではなかったか。
(伝統の銀座を、横浜《はま》の奴等に荒されてたまるものかい)
 若い私には無体《むたい》にそいつが癪《しゃく》にさわった。私は覘《ねら》う相手から、覘うもの[#「もの」に傍点]を捲きあげてしまわなければ、死んでも銀座には帰らないと肚《はら》を決めているのだ。――で、その大事の前に、顔馴染の刑事なんかと喧嘩をしてはつまらないではないか。我慢をしろ!
「オイ何とか云えよ」
「黙っていちゃ、駄目じゃないか」
 二人の刑事はジリジリと左右から肉迫《にくはく》してきた。相手の眼はらんらんと輝いた。私を大きな獲物《えもの》と見込んで、どうしても物にしようという真剣さが見える。これは簡単に済まないぞ。おとなしく身を委《まか》して機会を待つか、それともサッと相手の足を払《はら》って出るか、無気味《ぶきみ》な沈黙が三人の息を止めた。
 と、その時だった。――
 キ、キャーッ。
 と、魂消《たまぎ》える異様な悲鳴が、突然に闇を破って聞えた。どうやら向うの通《とおり》らしい。途端《とたん》に向うに見え
前へ 次へ
全38ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング