過ぎていますからネ」
私は軽く突っぱねた。時計をソッと見ると、既にもう十一時に間がない。私は気が気でない。
「いやに逃げるじゃないか」と執念深い刑事は反《かえ》って絡《から》みついてきた。「ところで一つ尋《たず》ねるが、赤ブイ仙太を見懸《みか》けなかったか」
「仙太がどうかしたんですか」
「余計なことを訊《き》くな。貴様、仙太と何処《どこ》で逢った。何時《いつ》のことだ」
「旦那方。私はハマの仙太の番をするくらいなら、今時《いまどき》こんな場所を一人で歩いちゃいませんぜ」と私はちょっと嘘をついた。
「ふざけるな。じゃあ訊くが、銀座無宿《ぎんざむしゅく》の坊ちゃんが河岸《かし》をかえて、なぜ横浜《はま》くんだりまで来ているのだ……」
坊ちゃん政――それは私にいつの間にか付けられた通《とお》り名《な》だった。もちろんかねて顔馴染《かおなじみ》の二刑事が覚えているのも詮《せん》ないことだろう。だが云わでもその名前を呼びかけられりゃ、いくら此処《ここ》は横浜《はま》だって小さくなっていられるものかと、私はムッとした。
だがそのムッとするのが、私の悪い病気なのだ。現に銀座を出て、単身《たん
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