に陳列してあった九万円の金塊を奪って逃げたという金塊強奪事件《きんかいごうだつじけん》である。犯人は前から計画していたものらしく、人気《ひとけ》のない早朝を選び、飾窓《ショー・ウィンドー》に近づくと、イキナリ小脇に抱《かか》えていたハトロン紙包《しづつみ》の煉瓦《れんが》をふりあげ、飾窓《ショー・ウィンドー》目がけて投げつけた。ガチャーンと大きな音がして、硝子には大孔《おおあな》が明いたが、すかさず手を入れて九万円の金塊を掴《つか》むと、飛鳥《ひちょう》のように其の場から逃げ去った。それから十日目の今日まで犯人は遂に逮捕されない。なにしろ早朝のことだったから、目撃した市民も意外に尠《すくな》い。手懸《てがか》りを探したが、一向に有力なのが集らない。事件は全く迷宮《めいきゅう》に入ってしまった。警視庁は連日新聞記事の巨弾を喰《くら》って不機嫌の度を深めていった。その際に本庁《ほんちょう》の強力犯の二刑事が、はるばる横浜《はま》まで遠征して来たのは、誰が考えたって、ハハア金魂事件のためだなと気がつく。
「そう信用して下さるのなら、話はまた別の日に願いましょう。今夜はこれで、だいぶ更《ふ》け
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