しそうな顔、そして幼《おさ》な馴染《なじみ》の清子の無邪気《むじゃき》な顔、――それが見る見る媚《あでや》かな本牧の女の顔に変る。
「明日になったら、清子に一度逢ってくれるかな。清子も逢いたいと云っているって、壮平爺さんが云ったが……。莫迦莫迦《ばかばか》。手前《てめえ》はなんて唐変木《とうへんぼく》なんだろう。自惚《うぬぼれ》が強すぎるぜ。まだ仕事も一人前に出来ないのに……」
自嘲《じちょう》したり、自惚たりしているうちに、ようやく陶然《とうぜん》と酔ってきた。――そして、いつの間にかグッスリ睡ったものらしい。
コツ、コツ、コツ。
慌《あわ》ただしいノックの音だ。それで目が醒《さ》めた。気がついてみると、空気窓からは明るい日の光がさしこんでいた。時計を見ると、午前九時。
「なんだア」
まだ早いのに……と、私は不満だった。
「朝っぱらから伺《うかが》いやして……」
と、扉《ドア》の向うでしきりに謝っているらしいのは、どうやら壮平爺さんの声だった。私は思わず、ギクンとした。
扉《ドア》を開いてやると、転がるように壮平爺さんが入ってきた。顔色は真青《まっさお》だ。不眠か興奮のせ
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