いか、瞼《まぶた》が腫《は》れあがっている。
「早いもので、ボーイさんも相手にせず、電話も通じて呉れないんで……」
と老人は恐縮《きょうしゅく》した。
「なんだネ、こんな朝っぱらから」
私はチェリーをとって口に銜《くわ》えた。
「イヤ政どん、今日は早朝から、わしも大騒ぎさ。アノ、カンカン寅の一家が、わしのところへ押し寄せてきやがった」
「ほうほう」私は紫の煙を、天井高く吹きあげた。美しい煙の輪がクルクル廻る。
「昨日はてんで[#「てんで」に傍点]相手にしなかったあの海岸通の建物を買うというのさ」
「うん、うん」
「わしは腹が立って、手厳《てきび》しく跳ねつけてやったよ。あれはもう売っちまった。もう遅いよとナ。すると、それはいかん、是非こっちへ売れという。それは駄目だと、尚《なお》も突っぱねると、向うは躍気《やっき》さ。こっちへ買い戻さねば親分に済まねえ。売らないというのなら手前は生かしちゃ置けねえと脅《おど》しやがる。それがどうも本気らしいので、政どんの昨夜《ゆうべ》の話もあり、じゃあ一寸相談してくるといってその場は納めたが……」と壮平は顔を慄《ふる》わせた。
「――じゃあ、売って
前へ
次へ
全38ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング