た。それは私が横浜《はま》に来た仕事の片《かた》をつけるためだった。
 どんな仕事?


   ギャング躍《おど》る


 その夜はたいへん遅くなって、宿に帰った。私はなんだか身体中がムズムズするほど嬉しくなって、寝台《しんだい》についたけれど、一向|睡《ねむ》れそうもなかった。とうとう給仕を起して、シャンパンを冷やして持って来させると、独酌《どくしゃく》でグイグイひっかけた。しかしその夜はなかなか酔いが廻らなかった。
 その代り、いろいろの人の顔が浮んで消え、消えた後からまた浮びあがった。――銀座の花村貴金属店の飾窓《ショー・ウィンドー》をガチャーンと毀《こわ》す覆面の怪漢が浮ぶ。九万円の金塊《きんかい》を小脇《こわき》に抱《かか》えて走ってゆくうちに、覆面がパラリと落ちて、その上から現れたのは赤ブイの仙太の赤づらだ。すると横合《よこあい》から、蛇《へび》のような眼を持ったカンカン寅がヒョックリ顔を出す。とたんに仙太の顔がキューッと苦悶《くもん》に歪《ゆが》む。カンカン寅の唇に、薄笑いが浮かんで、手に持ったピストルからスーッと白煙が匍《は》い出してくる。二人の刑事の顔、壮平爺さんの嬉
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