んばかりに駭《おどろ》いた。顔色を変えてカンカン寅の留守宅へ行って、いままでの事情を話すと共に、この際是非に融通《ゆうずう》を頼むと歎願《たんがん》をした。しかし留守を預る人達は、老人の話を鼻であしらって追いかえした。親分がこんなになっていて、そんなことが聞《き》かれると思うか、いい年をしやがってという挨拶《あいさつ》だった。
心臓が停まるほど驚いた壮平爺さんは、泣く泣く我が家へ帰っていった。路々《みちみち》、この上は娘に事情を云って新しい借金を負《お》わせるか、さもなければ首をくくろうかといずれにしても悲壮な肚《はら》を決めかけていたところへ、私が背後《うしろ》から声をかけたのだった。爺さんとは、私が少年時代からの知り合いの仲だった。――と、まアこういう訳だった。
「じゃあ爺さん。私がカンカン寅に代って、あれを千円で譲《ゆず》りうけようと思うが、どうだネ」
と、事情を訊いた私は、相談を持ちかけた。
「えッ。あんたが、代って千円を」爺さんは目を瞠《みは》って云った。
「文句がなければ、金はいまでも渡そう」
「そうけえ。済まないが、そうして貰うと……」
「ホラ、千円だア。調べてみな」
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