。ところで壮平爺さんは、目下大変な財政的ピンチに臨《のぞ》んでいるのだった。それは先年《せんねん》、ついウカウカと高利貸《こうりがし》の証文《しょうもん》に連帯《れんたい》の判を押したところ、その借主がポックリ死んでしまって、そのために気の毒にも明日が期限の一千円の調達《ちょうたつ》に老《おい》の身を細らせているのだった。下手をすれば、娘の清子を棲《す》みかえさせて、更に莫大な借金を愛児の上に掛けさせるか、それとも首をくくって死ぬより仕方がなかったのだった。詮方《せんかた》なく、物は相談と思い、カンカン寅の許を訪ね、あのボロボロの建物を心ばかりの抵当《ていとう》ということにして(あれでは二百円も貸すまいと云われた)、一千円の借金を申込んだ。
寅は何と思ったか、それを二つ返事で承知して、壮平爺さんを帰らせた。それは今から一月前のことだった。しかしカンカン寅は一向に金の方は渡す様子がない。それで催促《さいそく》にゆくと、期限の前日までに渡してやろうという話だった。ところが明日が約束の日という昨夜になって、カンカン寅が突然警察へ監禁《かんきん》されてしまったので、爺さんは失心《しっしん》せ
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