んば》っていた山城刑事に退路《たいろ》を絶《たた》たれ、逡《たじ》ろぐところを追いすがった折井刑事に組みつかれ、そこで大乱闘の結果、とうとう縛《ばく》についたというわけだった。二人の刑事は、案《あん》の定《じょう》大手柄を立てたことになった。その悦《よろこ》びのあまり、一旦|不審《ふしん》を掛《か》けた私だったが、何事もなく離してくれたのだった。
 しかし捕《とら》えたカンカン寅というギャングの顔役は、当局の訊問《じんもん》に対して、思うような自白をしなかった。彼の手先である赤ブイの仙太殺しの一件を追求しても、首を横に振るばかりか、例の証拠をさしつけても一向|恐《おそ》れ入《い》らなかった。かねがね手強《てごわ》い悪党だとは考えていたが、あまりにもひどく否定しつづけるので、係官もすこし疑問を持つようになったと、きょう折井刑事が不満そうに語ったことだった。
 それに引きかえ、カンカン寅|捕縛《ほばく》と共に、明かな失望を抱いたのは、この壮平爺さんだった。彼はあの古い建物の持ち主だった。彼は本牧《ほんもく》で働いている彼の一人娘|清子《きよこ》を除いては、この古い建物が彼の唯一の財産だった
前へ 次へ
全38ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング