私は事件の謎が、正《まさ》しくこの場に隠されていることを感づいた。
「よしッ。この秘密を解かずに置くものかッ」私は腕ぐみをしたまま、石のように、何時《いつ》までも立ち尽したのだった。
怪《あや》しき取引《とりひき》
その次の日の夕方、私は同じ伊勢佐木町で、素晴らしい晩餐《ばんさん》を執《と》っていた。前日と違っているところは、連れが一人あることだった。壮平爺《そうへいじい》さんという頗《すこぶ》る風采《ふうさい》のあがらぬ老人が、私の客だった。
「ほんに政どん」と壮平爺さんは眼をショボショボさせて云った。「あんたに巡《めぐ》りあわなければ、今頃わしゃ首をくくっていたかも知れん。あのカンカン寅が、人殺しの嫌疑《けんぎ》でお上《かみ》に捕《つかま》ったと聞いたときは、どうしてわしゃ、こうも運が悪いのかと、力もなにも一度に抜けてしまってのう」
カンカン寅というのは例の仙太の親分に当る男で、昨夜《ゆうべ》あの海岸通の古建物で、折井山城の二刑事に捕った怪漢のことだった。彼は始め階上に潜《ひそ》んでいたが、私たちをうまくやり過ごしたところで階段を下りて逃げだしたが、出口に頑張《が
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