それも大きな硝子壜《ガラズびん》が並んでいる。ひどい蜘蛛《くも》の巣が到《いた》るところに掛っている。埃っぽい上に、なんだか鼻をつくような酸っぱい匂《にお》いがする。しかし犯人らしい人影は見えない。
「じゃあ、おれは入って見る」と折井刑事は低声《こごえ》で云った。「山城君はここで番をして居給え」
「うん」
「私もお供しましょう」と申し出た。
「そうか。……だが危いぞ。おれはピストルを持っているけれど……」
「なーに、平気ですよ」
折井刑事と私とは、一歩一歩用心しながら建物の中に入った。樽《たる》の間を探してみたが、何も居ない。――刑事は頤《あご》をしゃくった。その方角に梯子段《はしごだん》が斜めに掛っていた。
(階段をのぼるのだな)
と私は思った。そのとき突然に、刑事の懐中電灯が消えた。
階段を一歩一歩、息を殺し、足音を忍んで上っていった。いまにも何処かの隅から、ピストルが轟然《ごうぜん》と鳴りひびきそうだった。
そのとき、折井刑事が私の腕をひっぱった。そして耳の傍《そば》に、やっと聞きとれる位の声で囁《ささや》いた。
「二階に手が届くようになったから、一度懐中電灯をつけて見る
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