。ピストルの弾丸《たま》が飛んでくるかも知れないが動いちゃいけない。その後で懐中電灯を消すから、その隙に階上《うえ》へとびあがるのだ。わかったかネ」
 私は低声《こごえ》で「判りました」と返事した。私を縛《しば》ろうとした刑事と、同じ味方となって相扶《あいたす》け相扶けられながら殺人鬼《さつじんき》に迫《せま》ってゆくのだ。なんと世の中は面白いことよ。
 折井刑事が、また一段上にのぼった。するとサッと一閃《いっせん》、懐中電灯が二階の天井を照した。灯《あかり》は微《かす》かに慄《ふる》えながら、天井を滑《すべ》り下りると、壁を照らした。それから四囲の壁を、グルグルと廻った。――しかし予期した銃声は一向鳴らない。途端にパッと灯が消えた。
(今だ!)
 私は階上に駈け上った。その拍子に、いやというほど、グラグラするものに身体をぶっつけた。見当を違えて、樽にぶっつかったものらしい。
 十秒、十五秒……。
 パッと懐中電灯が点《とも》った。しかし何も音がしない。
(さては、自分の思いちがいだったのか)
 私はイライラしてきた。
「さあ、こんどは君がこいつを持って」と刑事は私に懐中電灯を握らせ「
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